四半世記

感想文ページ(ネタバレあり)

【祝アニメ化】やがて君になる、その魅力:超正統派恋愛漫画

だから「好き」を持たない君が世界で一番優しく見えた

(2巻より)

 

仲谷鳰という方の描かれた、現在6巻まで発刊中で、2018年10月5日から放映開始されたアニメの原作である漫画、「やがて君になる」の10話(2巻)までについて。そしてその販促。

 

 

概要~3話まで(関係の始まり)

漫画公式特設ページ

daioh.dengeki.com

公式ページからあらすじを抜粋

人に恋する気持ちがわからず悩みを抱える小糸侑は、中学卒業の時に仲の良い男子に告白された返事をできずにいた。そんな折に出会った生徒会役員の七海燈子は、誰に告白されても相手のことを好きになれないという。燈子に共感を覚えた侑は自分の悩みを打ち明けるが、逆に燈子から思わぬ言葉を告げられる──
「私、君のこと好きになりそう」

 

アニメ公式ページ

yagakimi.com

 

      いつまでかはわからないけど期間限定で10話まで無料公開だそうです。

(幕間は単行本のみ掲載で無料公開されていない)

(現在は10話までまるごと公開は終了 10/19確認)

comic-walker.com

 

やがて君になるは、小糸侑と七海燈子という二人の女性の関係性をメインテーマとした漫画である。

既刊6巻で累計70万部という宣伝文句が示すとおり、百合というジャンルのみならず漫画一般の枠でみてもかなりのヒットを記録している。また、一つの関係性にフォーカスをあてた作品にも関わらず連続アニメという形で映像化されることとなっていて、注目を集めている。

 

この作品の大きな魅力のひとつとして、恋愛関係という歴史ある定まった関係性の型の前提を疑った点にある。

主人公小糸侑は、誰かを特別に思うという気持ちがわからない。容姿端麗成績優秀みたいな(外面は)超人な燈子に告白されようがキスされようが心が動かない。それでも誰かを特別に思う気持ちを知りたいと思っている。

お相手の七海燈子は、誰も特別と思わない侑を好きになる。そして、自分のことを好きにならないでいいから好きでいさせてほしいという。

 

ここまでが3話までの内容で、そうして二人の関係が始まる。この漫画がヒットした要因のひとつとして、侑の非恋愛的なポジションが時代の潮流とマッチしたのだと思う。絵に描いたような恋愛というのは誰もがするものではないし、誰かひとりを特別に思う気持ちがわからないということも共感を得る時代。

しかし私は、この漫画のストーリーは変化球なようでいて恋愛ものとして超正統派だと思う。むしろ恋愛ものはこうあるべきだというのがついに出たというか。誰かを特別に思うという気持ちが発生するのは自明じゃないということ、必ずしも終着点が恋愛関係ではないなかで関係性が描かれること。逆説的ではあるけれども、こうして恋愛を外側から描くことではじめて恋愛というものの輪郭が見えると思うから。

 

4話~5話(先輩の特別)

4話から5話は、燈子が侑を特別だと思う理由が語られる。

先輩の外面は亡き姉を目指して特別な私になりたいという努力の末につくられたもので、誰も特別に思わない侑だからこそその前では特別でなくてもいい。だから特別なのだということ。

 

特別というキーワードは恋愛においてとても重要なもの。

例えば、それなりに多くの人が性行為は恋人としかしないという規範をもっているけれども、それはその人としかしない特別な行為があったりその人にしか見せない特別な面がある=その人との関係が特別なものであるという風に発揮される。関係が特別であるがゆえに恋人という名称をあてはめる。その間にあるものはふっとばして。

だから、その人にだけ見せる面を用意するというのは恋愛上の基本的な駆け引き。

なんだけれども、七海燈子という人は最初にそれをやってしまうのだ。そして、自分のことは好きにならなくていいという。駆け引きを放棄したようでいて自分の欲求を通してしまう。

 

だから、七海燈子はずるいのだ。

 

6話~9話(変わる燈子と変わりたい侑)

6話から2巻なのだけれど、話の流れは燈子と侑の対比。

1巻で侑が特別である理由を侑に理解させた燈子ぱいせんは侑の”優しさ”につけこんで無邪気に距離を詰めてくる。対する侑は先輩の踏み込みを受け入れつつ変わらないようでいて・・・

この期間の侑の気持ちはなかなか難しい。生徒会の同僚である槙が指摘するように自分のことよりも燈子を心配しているし、それをお人好しだとするモノローグは言い訳っぽくもある。恋愛によせてみればツンデレっぽくもある。

しかしこの時点で侑にとって燈子でなければならないかといわれると、まだそうではない。誰かを特別に思う気持ちに、侑を特別に思って舞い上がってる燈子に、焦がれているけれどもまだ自分には降りてこない。

ここを長くみせてくれることがこの作品のいいところ、恋愛ものとして質の高いところ。傍からみたらもうそれは付き合ってるじゃんというところでも、心情からするとまだそこまでではない。まだ間に横たわるものがある。

 

10話

2巻の終わりである10話は、燈子のキャラの核となる部分が明かされる。

このエピソードを読み終えたときピンときたならば、既刊の6巻まで一気に読めてしまうと思うので、大人買いをしてしまってもいい(そこから先がさらに気になってしまうかもしれないけれど)。

ここまで記事を読んでくれて漫画を未読の人は、10話については上のリンクから先に読んでみてほしい。

 

 

 

 

特別な存在にみえた亡き姉の代わりになろうとする燈子は、自分にみせる素のままでいいという侑の言葉を拒絶する。初めて拒絶を口にした燈子に対して、侑は外面の燈子と素の燈子のどちらも好きにならないと宣言する。燈子を好きになりたいという内心を隠して。

このエピソードで形成された二人の関係性が最新の6巻まで続いて1つの結末を迎えているので、とても重要で、難しい。

 

侑はなぜ燈子を引き留めたのだろうか。

わたしの言うことなら耳を貸してくれると思ってた

先輩はわたしから離れないって

 

先輩と一緒にいられないなら

わたしに誰が好きになれるの

 

きっとわたしも寂しいからだ

侑のモノローグからすると、燈子の「好き」にあてられてるような感じもある。

燈子を好きになりたいから、その気持ちに嘘をついてまで引き留める、これはとってもややこしい。自分の気持ちを封じて相手の特別でいようとする、演じようとする、それはそれで相手に対する強い感情という気もする。これを恋愛感情と呼ぶかどうか。

 

一方の燈子は、侑の「好きになりたい」という内心を知らないまま、そのままでいてほしい好きにならないでほしいという思いをこめて「好き」という。

10話までの侑は素の状態で燈子と接していられたのだけど、燈子の「好き」が好きにならないでという意味を含んでいることを知って、自分に嘘をつくようになる。その結果、燈子の「好き」も徐々にずれていく。

 

相手の求めるものとか社会的に期待される役割を演じるというのも恋愛のひとつの重大な要素。

演技を使い分ける燈子と演技をするようになる侑。

そんな2人の関係は次巻以降、燈子の目標である生徒会演劇とともに語られることとなる。

 

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燈子は日向に、侑は日陰にいる